予想: 2022年のユーロとドルから期待できるもの

どの予想が正しくて、どの予想が外れているかは、常に、気になるところです。ちょうど1年前に世界大手銀行の専門家による2021年のEUR/USDの 予想をお伝えしましたが、今なら、どの予想がどのくらい正しくて、反対に、どの予想が外れていたかわかります。

 

 

昨年の予想: 結局のところ違っていました。

2019年12月に中国の武漢で最初のコロナウィルスの発生が記録されたましたが、この時は、世界的な感染拡大について話題になりませんでした。その時でさえ、フィナンシャルタイムズは、米連邦準備制度理事会が勧める量的緩和政策(QE) と市場に安いドルを流入することでドルの下落を招くというシティグループの専門家の予測を公表しました。シティーグループの予想は、スイスの銀行ロンバードオディエのアナリストや世界最大の投資会社の1つであるブラックロックからも支持されました。

パンデミックが拡大するにつれ、このシナリオは証明され始めました。この10年間の3月からドルは下げ始め、EUR/USD は這い上がってきました。2020年3月22日に1.0630で始まり、2021年には1.2300に更新しました。   

FRBは、2021年になる年越し前に金融刺激策を本格的に導入して紙幣の大量増刷をおこない、アメリカ市場には不安定なドルが溢れました。金融刺激策の縮小、さらには、利上げの計画はありませんでした。

これを踏まえて、2020年第3四半期までのドルの推移を振り返り、専門家は今後数ヶ月の予測を立てていました。多くの専門家は、2021年にヨーロッパへ資金が積極的に流れることにより、ドルの下げ幅が大きくなるという見方でした。確かに、アナリストが違えば、ドルの下落幅の評価にも違いがありました。

 例えば、最大手投資銀行であるゴールドマン・サックスがドルのレートが6%だけ下がるとした予想に対し、モルガン・スタンレーは、EUR/USD が1.2500に上昇するとした予想でした (ちなみに、1.2500は、ほかの多くの予想の中間的な数字でした)。

しかし、米ドルの暴落を予想する人もいました。著名なエコノミストであるユーロパシフィックキャピタルのピーター・シフ代表やモルガンスタンレー・アジアの前責任者であり、連邦理事会のメンバーであるスティーブン・ローチ氏は、2021年のドル暴落の可能性は50%だと推定していました。同時に、ローチ氏はドルの下げ幅が35%になる可能性もあると考えていました。やや少ないですが20%という下げ幅をシティグループのアナリストも予想しました。つまり、彼らの予想が正しければ、このレビューを読んでいる時、EUR/USD は1.4000-1.4400 圏内のはずでした。

2021年の幕開けとともにこのペアは上昇を始めました。しかし、この傾向は... 一週間も続きませんでした。1月6日の1.2350 が年初来高値でした。1月7日にすべてが変わりはじめ、ドルは損失を取り戻し始めました。

5 月末までは、コロナウィルス感染拡大やFRB議長の発言に伴い、米ドルは正弦波状に推移していました。しかし、夏前にはアメリカの中央銀行の雰囲気はハト派からタカ派に明らかに変わり、国内経済は回復し投資家の間ではFRSの金融引き締めが迫っているという確信が高まりはじめました。そして、これは長期的な買戻し資産の縮小とフェデラルファンド金利の上昇を意味します。投資家は、現行の"わずかばかり"の0.25%ではなく、2.25%だった2019年の夏の"金利"の頃を思い出し始めました。

その後、ドルは着実に上昇し(わずかながらの調整は含んでいません) 、現在は1.1200-1.1300圏内で2021年を終えようとしています。つまり、権威ある専門家が予想した1.2500からははるかに離れています。1.4000-1.4400について、話題にする意味すらありません。

 

新たな年に専門家が予想すること

過去の2021年のドル予想が死亡説のようであったとすれば、現在の米ドルの見通しは、一部の専門家にはかなり楽観的に映るようです。そして、これはG20 のほかの多くの国の中央銀行と異なり米連邦準備制度理事会がQEプログラムの縮小に積極的であったこと、労働市場を含めた米国経済の回復が順調であること、GDPの成長が5%予想であること、そして、現在、米連邦準備制度理事会のよるインフレ抑制の時期が来ているというこれら全ての要因によるものです。2023年末までに、少なくても1.5% の利上げがあるということにはほぼ間違いないでしょう。

オランダの金融INGグループ(Internationale Nederlanden Groep)の専門家によると、現在の状況だとEU、日本、スイスの物価上昇でより寛容なハト派的立場は、2022年の米ドルに対して自国通貨を下落させると分析しています。INGのストラテジストは、EUR/USDは、来年の第2四半期と第4四半期は1.1100 圏内、第4四半期は、さらに低い1.1000 の下落もありうると考えています。

世界最大の金融コングロマリットの1つであるHSBC(香港上海銀行)のアナリストも同様です。 “当社の主な見解”で は、 “1.世界経済の成長の鈍化と2.連邦準備制度理事会の段階的な利上げの可能性による2つの材料がドル支えの基盤になるとのことです。この2つの影響力は、このまま変わらず、2022年は徐々にドル高になるでしょう”。 HSBCアナリストは、ECBが2022年末まで基準金利の引き上げ計画がなければ、 EUR/USD は下落傾向になるとも考えています。

CIBC (Canadian Imperial Bank of Commerce)の専門家 もEUR/USD は、来年の第2四半期に1.1100、第3四半期に1.1000、第4四半期に1.1000というルートを辿るとして米ドルを支持しています。JPモルガン・ファイナンシャルホールディングスでは、1.1200水準でやや控えめにこのペアを評価しています。つまり、この場合だと、横ばい傾向のままだと言えます。

なお、すべての金融業界の権威がドル高予想ではないことに注目しましょう。多くのアナリストは反対の立場で、逆にドル安を予想しています。 “2022年‐ FXStreet記述では – FRSはハト派に戻り、ドルに圧力をかけるかもしれない”とあります。

バークレイズ銀行では、すでにドルは非常に過大評価されていると考えています。つまり、世界経済の回復とインフレ率の冷え込みによるリスク選好と物価上昇を背景に緩やかに下落すると予想しています。バークレイズのEUR/USDシナリオは次の通りです: 2022年第1四半期- 1.1600に上昇、第2四半期 - 1.1800、第3四半期と第4四半期- 1.1900圏内での推移。

ロイターは、ウォール街を代表する大手銀行にインタビューをして、今後12ヶ月間の外国為替市場の推移に関するシナリオを発表しました。回答者は、前述のJPモルガンとバークレイズに加えて、金融コングロマリットのモルガンスタンレー、ゴールドマンサックス、ウェルズファーゴ、およびヨーロッパ最大の資産運用会社であるアムンディでした。

モルガンスタンレーは、FRBの利上げはかなりスムーズに進み、ほかの中央銀行はハト派的からタカ派的政治に変わると予測しています。これにより、政府の動きが一致し、ドルに圧力をかけ、EUR/USD は、1.1800になると予想しています。

ゴールドマンサックスのストラテジストも同様に1.1800の目標を掲げています。しかし、この場合は、米ドルについては上出来だったと考えられます。実は、この銀行の以前の予想では、はるかに高い1.2500だったのです。

アムディでは、FRBが“市場の期待を裏切ることはほとんどないだろう”、また、年末までには金融政策は緩やかに通常に戻り、 “ドルにとっては、おおむね、プラスである”が、このペアは1.1400をつけるだろうと分析しています。

最も予想外の予測がウェルズ・ファーゴ投資研究所のストラテジストによるものでした。ただ、1.1000 から1.1800の範囲を示しただけでした。

そして、この予測が一番正確なもののひとつであると証明される可能性は十分にあります。

“人は信じることに、人生がある”などのような諺があります。人の計画は、入念なものであっても、不完全であり、変更可能であるという意味です。しかし、人生は、時の経過とともにすべてを置き去りにします。つまり、来年の年末になるまで、どのインフルエンサーが正しかったかはわからないのです。それまでの間は、新年を迎えるにあたり、皆様のお仕事でのご活躍、金融でのご健闘、ご健康など幸多い年であるようにお祈り申し上げます。どうぞ、よいお年をお迎えください!

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1週間後の次回のレビューでは、日本円(USD/JPY)、英ポンド(GBP/USD)、カナダドル(USD/CAD)、オーストラリアドル(AUD/ USD)、スウェーデン・クローネ(USD/SEK)、スイスフラン(USD/CHF)と中国元(USD/CNH)の今後について専門家の意見をお伝えします。

 

NordFX Analytical Group

 

注意: これらの資料は、金融市場への投資推奨でもガイドラインでもなく、情報提供のみを目的としています。金融市場での取引には、リスクがあるため投資資金を全て失う可能性があります。

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