EUR/USD: インフレ率の低下でドルは暴落
- 世界的なドル離れが始まり、喜んでいる(もしくは動揺している)人がいます。ブルームバーグのレポートにあるように、アメリカのインフレ率は3.0%に近づき、FRBが目標としている2.0%に大きく外れているわけでもなく、米国経済は転換期を迎えているようです。
先週のドルはこの一年でのかなり大きな米国のマクロ経済統計の圧力を受けました。7月12日(水)に発表された6月の消費者物価指数(CPI)は0.2%の上昇を示して、予想の0.3%を下回りました。年間の指標では4.0%から3.0%に下がり、 2021年3月以来の低水準となりました。コア・インフレ率も5月の5.3%から6月は4.8%に低下しました。
このような安定したインフレ率の低下の背景で、市場関係者はFRBの2回目の利上げ停止と金融政策の転換が目前に迫っていることの両方を盛り込みはじめました。CME グループ FedWatch のデータでは、FRBの25ベーシスポイントの追加利上げの確率が33% から20%に下がりました。つまり、多くの金融商品で大量のドルが外れました。その一方で、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁、リッチモンド連銀のトーマス・バーキン総裁、FRBのクリストファー・ウォーラー理事によるインフレ率が目標レベルを上回っており、FRBでは金融引き締めの政策(QT)を継続するつもりであるとの発言は市場にまったく影響しませんでした。
ドルの下落はこれだけでは終わりませんでした。 7月13日(木)に米国労働統計局が6月の生産者物価指数(PPI)が年率換算で0.1%しか上昇しなかったと報告した後、EUR/USD は上昇が続きました (予想は0.4%、5月は0.9%)。これにより、DXYドルインデックスは、100.00 のサポートを突破して、2022年4月の相場まで下がり、EUR/USD は2022年2月以来の高値1.1244をつけました。
多くの市場関係者は米ドルの最高の時期は終わったと判断しました。米国経済は鈍化、インフレ率は目標に達して、FRBは金融緩和キャンペーンを開始することになりでしょう。その結果、2023年後半から2024年にかけて米ドルに対しての通貨が上昇することになります。このような予想の結果、スポット米ドル指数は15ヶ月ぶりの低水準まで下落、ヘッジファンドは3月以来の初めて米ドル売りとなりました。
ドル暴落のあった今週のEUR/USD は1.1228で終了しました。直近の見通しでは、このレビュー執筆時点の7月14日夕方、アナリストの30% が上昇、55%が下落の予想で、残りの 15%が中立の立場です。D1のトレンド系とオシレーター系では、100%が緑ですが、3分の1が買われ過ぎを示しています。
直近のサポートは、1.1200付近、そして、1.1170、1.1090-1.1110、1.1045、1.0995-1.1010、 1.0895-1.0925です。強気筋は、1.1245、1.1290-1.1310、1.1355、1.1475、 1.1715でレジスタンスに直面します。
7月26日に予定されている次回の連邦公開市場委員会(FOMC)までのブラックアウトの期間が7月15日から始まります。つまり、来週はFRBからの公式発表は期待できません。 相場には、市場に出回るマクロ経済データのみが影響を与えることになるでしょう。7月19日(水)はユーロ圏のインフレ率(CPI)が判明します。そして、7月20日(木)には、米国の失業率、製造業景況感指数、住宅市場に関するデータ発表があります。
GBP/USD: 上昇の可能性は残ったまま
- 6月末に遡ると、 GBP/USD が数週間、もしくは数日で1.3000 までの残りをカバーするかも知れないと予測していました。そして、その通りでした。現在の状況では、英ポンドは上昇の可能性を残したまま、先週の高値は1.3141で2022年3月末-4月のはじめまでの水準でした。5日間の終値は1.3092でした。
ドル安に加えて、ポンド上昇のもう一つの要因はイギリス金融システムの評価に関する半期報告書でした。同報告書は、政策金利の引き上げサイクルの長期化に対するイギリス経済の回復力を証明しました。米国の複数の銀行とは異なり、イギリスの主要銀行は高い自己資本を維持して利益も上昇しています。これは、今年あと数回の利上げに耐えられることを示唆しています。8月3日の次回のイングランド銀行(BoE)の会合では50ベーシスポイント(bps)の追加利上げで5.50%になると予測されています。そして、物価上昇がより大きな課題のため、経済問題を考慮せずにそうするでしょう。5月のイギリスの消費者インフレ率 (CPI) は8.7% (比較のため、同時期のドイツは6.1%、フランスは4.5%、日本は3.2%、米国は5月が4.0%、6月が3.0%)でした。
イギリスの労働市場もインフレ率を押し上げています。利上げにも関わらず、最新レポートでは賃金上昇率が前年比6.9%に加速していることが示されています。Covid-19パンデミック時の混乱時期を除けば、これは2001年以降の最も速いペースです。また、失業率は賃金と伴に上昇しているものの、現在は4.0%で歴史的にも低い水準です。確かに、去年の8月は3.5%でより低い水準でしたが、1年あまりでわずか0.5%に上昇させたものは何であったのでしょう? ありません! (あるいは、ほぼありません)。
全体として、当面はイングランド銀行が金融引き締めを続けることを妨げるような大きな障害はありません。つまり、追加利上げの見通しが英ポンドの追い風となるでしょう。また、多くのアナリストによると、GBP/USDが1.3000 の抵抗を突破すれば、今度は、1.3500 が抵抗となるでしょう。
しかし、このような上昇がすぐあるということではありません。"ある意味、ポンドはタカ派的なイングランド銀行を背景に既に過大評価されており、現在のドル安に対して高くなる可能性は低いでしょう。しかし、今週の終値が1.3000を超えれば、GBP/USD の今度のターゲットは1.3300になります" とオランダの最大手金融グループのINGは分析しています。
また、カナダのスコシアバンクは、1.2900-1.3000のプルバックと1.3300付近への更なる上昇を否定できず、来週のポンドは、保ち合いとなる可能性が高いと示しています。シンガポールのユナイテッド・オーバーシーズ銀行も強気の見方を支持しています。エコノミストは、"上昇の勢いがGBP/USD のプルバックの可能性が低いことを示しています。反対に、週移動平均線は抵抗線に向かって推移する可能性が高いでしょう。主なレジスタンスは現在1.3335です"と分析しています。
直近の予想中央値では、さらなる上昇を支持するアナリストは25%に過ぎません。 逆が50%で、残り 25%が中立です。テクニカル分析については、トレンド系とオシレーター系の100% が上向きですが、後者の4分の1は買われ過ぎを示しています。このペアが下落した場合、1.3050-1.3060、そして、 1.2980-1.3000、 1.2940、1.2850-1.2875、1.2740-1.2755、1.2675-1.2695、1.2570、1.2435-1.2450、 1.2300-1.2330がサポートになります。このペアが上昇した場合、1.3125-1.3140、1.3185-1.3210、 1.3300-1.3335、1.3425、1.3605がレジスタンスになります。
来週の注目のイベントはイギリスの消費者物価指数(CPI) のような重要な指標の発表がある7月19日(水)です。今週の最終営業日、7月21日(金)は、イギリスの小売売上高に関するデータも発表されます。これらの数字がイングランド銀行の金利決定における重要な要素である個人消費と経済活動全般に関する見通しとなるため相場にかなり影響するでしょう。
USD/JPY: 円が再び投資家を喜ばせる
- 2週連続の円投資家の忍耐が報われました。USD/JPY は、月から地球へ下降して、今週の安値は137.23となりました。つまり、6月30日からのちょうど2週間で円はドルに対して 780ポイント以上の上昇でした。
DXYバスケットに含まれる他の通貨と比較すると、円は明らかに一番にメリットを受けているようです。この安全通貨の最大の武器は、米国の景気後退に対する投資家懸念と米国債利回りとの格差の縮小です。国債とUSD/JPY の相関関係は誰もが知っていることです。米国債利回りが低下すれば、円は対ドルで上昇します。先週は、CPIデータの公表に続いて、10年利回り米国債が3.95%から3.85%に、2年物は4.85%から4.70%に低下しました。
日本銀行(日銀)が今後数ヶ月以内に超金融緩和政策の引き締めに向けて最終調整するのではないかという憶測も円高の後押しとなっています。これについては、日本政府も日銀のリーダーも明らかにしてないので、ここでの憶測となります。
フランスのソシエテ・ジェネラルで5年利回り米国債が1年後に2.66%まで下落して、USD/JPY は130.00を下回ると分析していることを振り返りましょう。また、日本国債(JGBs)の利回りが現在の水準のままならば、125.00の下落の可能性すらあります。 ダンスケ銀行のエコノミストは、USD/JPY が6–12ヵ月以内に130.00 を下回ると予想しています。BNPパリバのストラテジストも似たような予想で、年末までに130.00 、2024年までに123.00を示しています。 このような状況で、多くのヘッジファンドがドル売り円買いを開始しました。
先週のUSD/JPY は高値保ち合い後に138.75で終了しました。現時点では、アナリストの45%が、数日後に上昇をはじめると分析しています。 下落に転じると予想するアナリストは 15%に過ぎず、残りの 40% は様子見です。D1 インジケーターについては次のとおりです: オシレーター系の100%が赤ですが、 10%は売られ過ぎを示しています。トレンド系の緑と赤の比率は、 35%対60%です。直近のサポートは、138.05-138.30に続いて、 137.25-137.50、135.95、133.75-134.15、132.80-133.00、131.25、130.60、 129.70、 128.10、 127.20です。直近のレジスタンスは、 1.3895-1.3905、それから、139.85、140.45-140.60、 141.40-141.60、142.20、143.75-144.00、145.15-145.30、146.85-147.15、148.85、そして、最終的には2022年の高値151.95になります。
来週は日本経済に関する重要な情報発表は予定されていません。ただ、7月17日(月)は祝日:海の日なので注意してください。
暗号資産: カール・マルクスと$120,000の BTC
- 先週は米国で目を見張るような消費者インフレデータの発表の後、市場はFRBが間もなく金融制限を止め、政策金利を引き下げると確信しました。これにより、ドルは急落、リスク資産は上昇しました。S&P500、ダウ・ジョーンズ、ナスダックナスダック総合株価指数は上昇しましたが、ビットコインは上昇しませんでした。BTC/USDは、 ピボットポイント$30,600に沿った横ばいでの狭い取引幅でした。株式との直接相関やドルとの逆相関をすっかり忘れてしまったかのようでした。 7月13日(木)に米国のPPI発表後、ビットコインは上昇になりそうでしたが、成功しませんでした: その翌日には横ばい圏内に戻りました。
このようなことは、どうして起きたのでしょうか? 株式市場に伴ってデジタルゴールドの妨げになったのは何だったのでしょうか? これには、特に大きな理由はなさそうです。しかし、アナリストは暗号資産の足かせとなっている3つの要因を挙げています。
まず、一つがマイニングの収益性の低さです。計算の複雑さが増しているため、収益性は今までになく低いままです。さらに、新たな価格下落の可能性の恐れもあります。そのため、マイナーは新たにマイニングしたコインだけでなく(1日、およそ900 BTC)、蓄えてあったコインを売却する傾向にあります。Bitcoinmagazineのデータによると、マイナーは、この6年間に記録的な量のコインを取引所に送っています。
マイナーに加え、米国政府も供給増に貢献しています。7月12日の1日だけでも、3億ドル相当のコインを仮想通貨取引所に送っています。これが、2つ目のマイナス要因です。そして、最後に3つ目ですが、10月末までに口座に残っているすべてのコインを顧客に支払わなければならない破産したMt.Gox取引所です。 この数字は約135,900 BTC、合計で48億ドル相当になります。支払いは暗号資産で、その暗号資産は市場で売却され、法定通貨と両替されることになります。
もちろん、これら全てがプラスとなるわけではなく、供給は増加しても需要は増加しません。しかし、ビットコインの平均取引量が1日120億ドルを超えていることを考慮すると、この数字は末期的でもなさそうです。私たちの見解では、現在の横ばい傾向の大きな理由は、プラスとマイナスのバランスにあると考えられます。プラスはブラックロック、インベスコ、フィデリティなどの大手がスポットBTC-ETFのローンチを申請していることが挙げられます。その一方で、米国証券取引委員会(SEC)による暗号資産市場の規制圧力の高まりはマイナスです。
なお、SECは以前、スポットBTC-ETFの申請をすべて却下しており、現在も許可を与えることに積極的ではありません。つまり、これらのファンドの争奪戦は何カ月にも及ぶ可能性があります。例えば、ブラックロックの申請に対する最終決定は、早くても2023年第3四半期半ば、遅くとも2024年3月中旬までと予想されており、これは次のBTC半減期のちょうど1カ月前になります。この半減期は、BTCの上昇だけでなく、その前のきっかけとなる可能性もあります。
スタンダード・チャータード銀行のエコノミストによれば、ビットコインの価格は年内に$50,000 を超え、来年末には$120,000 になる可能性があります。同行のアナリスト、ジェフ・ケンドリック氏の見解では、価格が上昇すれば、マイナーは蓄える戦略へと戻ります。既に述べましたが、現在、マイナーはマイニングしたすべてを売却しています。しかし、ビットコインが$50,000で取引されるようになると、現在の1日あたり900 コインの売却から180-270コインへ減少します。このような供給量の減少は、資産価値のさらなる上昇につながるはずです。総じて、すべてはカール・マルクスの需要と供給の経済理論と一致しています。
マイナーだけでなく、機関投資家もスポットBTC-ETFの開始や半減期だけでなく、 FRBの金融政策の移行やドル安を見込んでビットコインの積み立てに関心を示すとされています。グレイスケール・インベストメンツのマイケル・ソネンシャイン最高経営責任者(CEO)が最近述べたように、ビットコインが"一時的な流行"でないことが明らかになりました。 "最近のニュース[...] 広い意味でこの資産クラスの回復を強調しており、多くの投資家は[デジタルゴールド] をユニークな投資チャンスとして見ています"。
アナリストでトレーダーのマイケル・ピッツィーノ氏も、ドルが大幅に下落するだろうと分析しています。しかし、同氏は相場推移がほかの金融資産よりも遅いため、世界の主要通貨の崩壊シナリオは考えられないといいます。ただ、ピッツィーノ氏は、近い間に米ドルは確実に下落して、デジタル資産に資金が再分配されると予想しています。マクログラフのチャートはその上昇傾向を示しており、USDと BTCの相関関係を考慮すると、前者の下落は後者の上昇に貢献して、ほかの暗号資産が続いて上昇していきます。
有名な"金持ち父さん、貧乏父さん"の著者であるロバート・キヨサキ氏は、2024年までにビットコインが, $120,000台になると主張しています。こちらのエコノミストは、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が間もなく金本位制に移行して、金による独自の暗号資産を発行するとしたことを基に予想しています。 これは世界経済における米ドルの優位性が損なわれ、通貨切り下げとなる可能性があります。また、従来の金融機関の多くが近い将来に軽率な判断と腐敗で倒産するかもしれないと警告しています。これについて、キヨサキ氏は現物の金やビットコインを購入することでインフレから資金を守ることを推奨しています。
同様の数字については、暗号資産金融サービスのマルクス・ティーレン氏が2024年のはじめだけでなく、年末までと示されました。同氏は、CoinDeskのインタビューでビットコインが来年末に$125,000になると述べています。 "6月22日にビットコインは年内高値を更新しました。このシグナルは弱気相場の終わりと強気相場のはじまりを歴史的に示しています" と同氏は説明しています。
マルクス・ティーレン氏によれば、ビットコイン相場は2カ月で123%、1年半で310%高騰するそうです。このような上昇だと、価格はそれぞれ、$65,539と$125,731になります。同氏の予想では、2012年8月、2015年12月、2019年5月、2020年8月という過去の類似シグナルの平均収益率に基づいています
(ティーレン氏は意図的に18ヶ月間で5,285%の上昇の最初のケースを除外して、"素晴らしい" と"不均衡"と示しています)。
より短期的な予想として、 ベンチャー企業Eightの創設者であるマイケル・ヴァン・デ・ポッペ氏は、ビットコインが$41,000に急伸しそうであると分析しています。 こちらの人気のアナリストの意見は、最近のビットコイン相場の上昇率とフィボナッチレベルに基づいたものです。同氏によれば、" BTCの年間最高値は4月に更新されました。そして、今はトレーダーが強気の勢いとポジションによりさらに高値を更新していることが見られます"。 "強気サイクルと呼ばれる上昇トレンドの継続には、ビットコインのより明らかな高値更新が必要とされます" とマイケル・ヴァン・デ・ポッペ氏は説明しています。"フィボナッチレベルを利用してさらなる上昇の可能性を決めるにはいくつかポイントがあります。そして、今は、$41,000 に向かって上昇すると言いたいです"。
"2つのシナリオがあります: 現在の最高値更新につづいて、保ち合いとなり、新たな高値更新を前に反落。あるいは、現在のレベルでの持ち合い、それから、今後数ヶ月で上昇が加速。ビットコインでは、これは標準的な推移です。そして、 $41,000 もしくは、$42,500へ向かおうとするでしょう" と同氏は分析しています。
このレビュー執筆時の7月14日(金)の夕方、BTC/USD は$30,180付近の取引です。暗号資産市場の時価総額は、やや増加して、1兆1,980億ドル(1週間前は1兆1,760億ドル)となりました。Crypto Fear & Greedインデックスは60ポイント(1週間前は55ポイント)で強欲圏内です 。
NordFX Analytical Group
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