EUR/USD: ユーロ崩壊の引き金はECB
- 先週は2つの重要な出来事がありました。ひとつは9月13日の米国消費者物価指数(CPI)の発表です。そして、もう一つが、9月14日の欧州中央銀行(ECB)理事会です。
最初の出来事に関してですが、米国の年間CPI は7月の3.2%から8月は 3.7% に上昇、市場予想の3.6%を上回りました。月ベースのCPI は0.2%から0.6%に上昇、まさに市場の予想どおりでした。このデータに対する金融市場の反応は比較的落ち着いたものでした。CMEグループによると、 連邦公開市場委員会(FOMC)が9月20日の会合で政策金利を現行の5.50%に据え置く確率は78.5%です。 しかし、CPI統計では、規制当局に今後の金融引き締めの可能性を残しています。米国のインフレ率が上昇を続ければ、FRBが借り換え金利を25ベーシスポイント(bps)追加利上げする可能性が高くなります。米国経済が安定した成長を示していることや国内の労働市場が堅調に推移していることを考えれば、この可能性は特に大きくなります。発表された新規失業保険申請件数は22万件で予想の22万5,000件を下回りました。
もう一つの出来事は、より不安定な反応を示しました。9月14日(木)にECBはユーロの政策金利を10回連続で25ベーシスポイント(bps)引き上げ、4.25% から 4.50%にしました。これは2001年以来の高水準です。 専門家の意見はさまざまで、タカ派的ともハト派的とも言えます。ただ、論理的には利上げがユーロを支えるはずでした。対照的に、EUR/USD は1.0700 台を割り込み、1.0631の安値でした。2023年春以来の下げ幅になります。
ユーロの下落は、ECB指導部のハト派的な発言によるものです。一つには、中央銀行が長期的に維持していれば、ユーロのインフレ率は目標の2.0%になるだろうとういうことで金利を引き下げたことだと推測されます。ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁の"金利がピークに達したとは言っていません"という発言は、投資家に大きな印象を与えませんでした。 投資家は、現在の4.50% の利上げが金融引き締め策の最終ステップである可能性が高いと判断しました。その結果、FRBに5.75%に利上げの可能性が残されている中で EUR/USD の弱気筋は大きく有利となっています。
木曜日に発表された8月の米国の小売売上高は前月比0.6%増で予想の0.2%増を大幅に上回り、弱気筋の勢いはさらに大きくなりなした。また、8月の生産者物価指数(PPI)も0.7%上昇、こちらも予想と前回の0.4%を大きく上回りました。
"成長率の差が主導的な役割を果たすために、米国経済の相対的な強さが今後数ヶ月間のEUR/USDの圧力となるでしょう。私たちは、今後6-12ヶ月間は1.0600-1.0300のレンジで推移すると予想しています" と北欧の大手銀行、ダンスケ銀行のストラテジストはコメントしています。また: "ドルの急激な推移は想定しづらく、コモディティ価格が現在上昇していることから、クロスの6ヶ月先予想は予想より早く到達する見込みです"とも続けました。
HSBCのストラテジストは、このペアの下落は加速して年内には、1.0200水準となるだろうと予想しています。 INGのエコノミストによれば、このペアは来週のFRBの会合前後で1.0600-1.0650付近まで下落するかもしれません。 "現状では、EUR/USDレートは、ドルの影響を受けやすくなるでしょう "と述べています。"市場は、ECBが金利のピークに達した可能性が高いことを認識しており、ユーロ圏のデータの関連性が低くなることを意味しています。今日[9月15日]にEUR/USD は再び上昇するかもしれませんが、FRBの会合前後では、1.0600/1.0650 付近に戻る可能性が高いと思われます"。
このレビュー執筆時、9月15日の晩、 このペアは実際に上昇をして、1.0660をつけて5日間の取引を終えました。アナリストの55%が上昇調整継続の支持である一方、45%は INGのエコノミストの意見に同意でこのペアの下落支持です。テクニカル分析については、この1週間ほとんど変化していません。時間軸D1のトレンド系とオシレーター系では、100% がドルを支持したままで赤です。しかし、オシレーター系の25%は、このペアの売られ過ぎを示しています。 直近のこのペアのサポートは、1.0620-1.0630 付近、そして、1.0515-1.0525、1.0480、1.0370、1.0255と続きます。強気筋では、 1.0680-1.0700 付近がレジスタンスとなり、その後は、1.0745-1.0770、1.0800、1.0865、1.0895-1.0925、1.0985、 1.1045となります。
来週はかなりイベントがあります。9月19日(火)にはユーロ圏の消費者物価指数(CPI)があります。間違いなく、今週、おそらく、今後数ヶ月で最も重要なイベントであるFRBのFOMC会合は9月20日(水)です。金利決定だけでなく、投資家はFOMCの長期予測やFRBのその後の記者会見で貴重な情報が得られると期待しています。9月21日(木)には、フィラデルフィア連銀製造業活動指数とともに恒例の米国の失業保険の新規申請件数の発表があります。金曜日にはドイツ、ユーロ圏、米国のPMIデータの発表があり、企業活動の統計が目白押しです。
GBP/USD: イングランド銀行の会合を控えて
- 最近の統計では、イギリス経済は厳しい局面を迎えています。より感情的なアナリストの中には、その状況を悲惨だと述べる人さえいます。GBP/USD は、イギリスの期待外れのGDPデーターに対して下落を続けました。国家統計局(ONS)が9月13日(水)に発表した最新の数値によるとイギリス経済は月次ベースで予想のマイナス0.2%に対し前月比-0.5%の縮小でした。
前日の火曜日にONSは労働市場に関して失望させるデータの発表をしました。7月までの3カ月間の失業率は4.3%で前回の4.2%に対して上昇しました。雇用者数は207,000人減少、前月は66,000 人の減少でした。市場コンセンサス予想では18万5000人減でした。
イングランド銀行(BoE)のインフレ対策への取り組みはかなり控えめにみられます。イギリスの年間物価上昇率は7.9%から6.8%(2022年2月以来の低水準)に低下しましたが、インフレ率は依然としてG7諸国の中で最も高いままです。さらに、コア消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.9%と前月から変わらずで、2ヶ月まえのピークから0.2%だけ下回ったままです。
イングランド銀行のサラ・ブリーデン副総裁は、"インフレリスクは [...]現在、大きくなっています"と述べ、目標レベルの2%は2年後になるとした見方です。一方、四半期ごとの調査データでは、イングランド銀行の物価高騰抑制に満足しているのは国民のわずか21% です。これは、過去最低の記録になります。
カナダのスコシアバンクのアナリストは、GBP/USD の下落は、今後数週間で1.2100 まで続き、将来的には1.2000まで下落すると予想しています。
GBP/USD の先週の終値は1.2382でした。中央値予想では、アナリストの50%がこのペアの上昇調整予想、 35% が下落継続予想、残り15%が横ばい予想です。トレンド系とオシレーター系 のD1チャートでは、トレンド系と15%が売られ過ぎを示しているオシレーター系の100%が赤になっています。このペアの下落が続く場合、1.2300-1.2330、1.2270、1.2190-1.2210、1.2085、1.1960、1.1800がサポートになります。上昇調整の場合だと、1.2440-1.2450、1.2510、1.2550-1.2575、1.2600-1.2615、1.2690-1.2710、1.2760、1.2800-1.2815でレジスタンスに直面するでしょう。
イギリス経済関連の重要イベントの中でも、9月20日(水)の消費者物価指数(CPI)の発表は際立っています。このインフレ指標は間違いなくイングランド銀行の金利決定に影響を与えることになります (予想では5.25%から5.50%の25 bps引き上げ)。イングランド銀行の会合は9月21日(木)です。また、週の最終取引日には小売売上高とイギリス購買担当者景気指数(PMI)の発表があります。
USD/JPY: 日本銀行からのサプライズはまだ期待できず
- 今年になって、円はドルに対して徐々に下がり、USD/JPY は2022年11月の水準に戻っています。日本銀行(日銀)の1年前の積極的な為替介入はこの水準であったことに注目です。しかし、今年の日銀は、今のところ、積極的な介入はあったものの、口頭のみです: 日本の高官が頻繁に公にコメントしています
読売新聞の最近のインタビューで、日銀の植田和男総裁は、2%という持続可能なインフレ目標が達成されたと判断した場合、マイナス金利を止めるかもしれないと述べています。植田総裁によれば、年末までに政策転換の条件が整っているかどうかを見極めるための十分なデータが揃います。
この口頭介入はインパクトがあり: 市場は円高に振れました。しかし、"マジック" の効き目は短く、USD/JPY は直ぐに上昇して、5日間の取引は147.84で終了しました。
ダンスケ銀行のエコノミストは、世界的状況が日本円を支持すると考えているため、6-12ヵ月でUSD/JPY は130.00まで下落すると予想しています。 "米国の利回りはピークを迎えるか、それに近づいていると考えており、これがUSD/JPYの弱気スタンスの主な根拠と考えています" と同行は述べています。"また、成長率とインフレ率が下がっている現在の世界的な経済状況で、日本円が好まれることは歴史的にも示されています" とダンスケ銀行も今後の2四半期以内に米国で景気後退が始まり、FRBがドルの利下げをすると予想しています。FRBが緩和サイクルを終えるまで、日本銀行は金融政策の据え置きが見通されています。つまり、2024年後半までに日銀が動く見込みはありません。
短期的な予想について、ソシエテ・ジェネラルは、9月20日のFRBのFOMCの決定により、USD/JPY が150.00台付近に近づく可能性を否定していません。9月22日(金)の日本銀行の会合では、サプライズはないと予想されており、再び口先介入が高いと見通されています。一方、調査対象の大多数のアナリス (80%) はFRBが金利据え置きなら、USD/JPY は下落調整の可能性が高いと見ています。10%だけが、上昇が続くと予想している一方で、 残りの10% は中立の立場です。D1のすべてのトレンド系とオシレーター系は緑ですが、オシレーター系の10% は買われ過ぎの状況を示しています。
直近のサポートは、146.85-147.00圏内、それから、 145.90-146.10、145.30、144.50、143.75-144.05、142.90-143.05、142.20、141.40-141.75、140.60-140.75、138.95-139.05、 137.25-137.50と続きます。直近のレジスタンスは、147.95-148.00に続いて、148.45、148.85-149.10、150.00、そして、最終的には2022年10月の高値151.90となります。
既に9月22日の日本銀行金融政策決定会合については述べました。来週は日本経済関連の重要なデータ発表の予定はありません。しかし、トレーダーは、9月18日(月)が敬老の日で祝日であることに留意してください。
暗号資産: デスクロスとビットコインのパラドックス
- ビットコインの日足チャートに50日移動平均線と200日移動平均線の交点の"デスクロス" が出現しています。このパターンが最後に出現したのは2022年1月中旬で、その後11月までビットコインの価格は3倍近く下落しており、懸念材料となっています。興味深いことに、同様のデスクロスは2021年7月にもありましたが、下落せず、ある程度の安心感をもたらしました。
今週の暗号資産市場は、ボラタリティが大きく、ビットコインの取引高は150億ドルにもなりました。このようなレベルの動きは、通常、主要なマクロ経済イベントの前後にのみ見られます。今回の場合は、9月13日(水)の米国のインフレデータの発表や20日に予定されているFRBの会合がこれにあたります。
BTC/USD の週足チャートでは、次のような傾向が見られました。9月11日(月)、ドル安と株価指数の上昇にもかかわらず、ビットコイン価格は$25,000を割り込みました。この下落は、破産処理の一環として物議を醸しているFTX 取引所がデジタル資産の売却を計画しているという噂で勢いづきました。火曜日、投資家のより安い水準での購入再開により、ビットコインの価格は$26,500を上回りました。木曜日はECBの金利決定により、ビットコインは引き続きポジションを強化して、$26,838の高値となりました。これは、ドルの上昇時に起きました。
確かに、最近の価格推移はパラドックスです。BTC/USD を天秤に例えてみましょう。片方が重くなって下がれば、もう片方が上がります。しかし、両方が下がり、両方が上がるのを目にしました。一部のアナリストによると、このようなビットコインの動きの背景には基本的な根拠はありません。流動性が低く、時価総額が下がっているため、資産がある投機家グループから別の投機家グループに単に"移された"に過ぎません。
米証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー委員長が上院でした証言ですら、市場関係者を怯えさせず、委員長は暗号資産の大多数は同委員会の管轄下にあると述べました。つまり、取引所、ブローカー、ディーラー、仲介業者はSECの登録が必要とされます。
ゲンスラーは暗号業界の現状を、証券市場の法整備が進んでいなかった20世紀初頭の "西部開拓 "の時代になぞらえました。この間、SECは業界を抑制するために一連の厳格な取締をおこない、多くのケースが法廷闘争となりました。企業に対する抑止力としてだけでなく、投資家を保護するためにも、今日同様の措置が必要であるとSEC委員長は述べました(注目したいのはRippleのブラッド・ガーリングハウスCEO によると、米国が暗号資産計画の立ち上げに"最悪の場所"の一つとなったのはSECのせいだそうです)。
しかし、SECだけでなく、FRBなどの他の規制当局もあります。9月20日に発表されるFRBの決定と予測が、暗号資産を含むリスク資産の動向に影響を与えることは明らかです。ブルームバーグ・インテリジェンスのシニア・マクロ・ストラテジスト、マイク・マクグローン氏はすでに、暗号資産セクターの近い将来は厳しいと投資家に警告しています。同氏によれば、デジタル資産はゼロ金利に近い時期に人気でした。しかし、金融政策の変更により、業界は厳しくなります。マクグローン氏は、先物契約に基づき、米国債の利回りが11月までに5.45%に達すると予想されていることを指摘しました。対照的に、2011 年から 2021 年までのこの利回りはわずか0.6% 前後に過ぎず、この期間にビットコインなどのデジタル資産が大きく上昇しました。つまり、暗号資産からの流動性の流れは驚くものではありません。
繰り返しになりますが、多くのアナリストは中長期的な見通しは肯定的ですが、短期的な見通しは否定的です。ベンチャー企業Eightの創業者であるマイケル・ヴァン・デ・ポッペ氏は、差し迫っている強気相場を前にしてビットコインの最終価格調整があると予想しています。同氏によれば、弱気筋が現在の指数平滑移動平均線$24,689を下回れば、最悪の場合にビットコインは$23,000まで下落する可能性があります。ヴァン・デ・ポッペ氏は、今度の調整がビットコインを安値で買う最後のチャンスになるという見方をしています。
クリプト・キャピタル・ベンチャーの創設者であるダン・ガンバーデロ氏は、次の強気サイクルが暗号資産市場で最も印象的なものになると予測しています。しかし、同氏も暗号資産市場にはサイクルがあり、蓄積段階であることを投資家に思い出させています。このことから、ガンバーデロ氏は、ビットコイン相場が今後数週間のうちに$21,000 に下落すると警告しています。同氏は、この下落の可能性が次の強気相場を見越して、コインを蓄積しようとしている大口の市場操作によるものだと考えています。
CrypNuevoとして知られる人気のアナリストによると、ビットコインは近いうちに$27,000台になる見込みです。しかし、こちらのアナリストは、これは誤った推移である可能性が高く、その後はすぐに、$24,000の下落が予想されると強調しています (注目すべきは、8月17日にBTC価格が2022年12月に始まった上昇トレンドラインを突破、それを下回ったところで落ちつき、弱気トレンドが長期化するリスクが高いことを示しています)
イーサリアムの短期的な見通しついても、楽観的ではありません。Matrixport のアナリストは、ETHが $1,500まで下落すれば、$1,000までの道が開かれると述べています: これは専門家がイーサリアムブロックチェーンエコシステムの収益予測に基づいて考えられるレベルです。Matrixport は、ETH が、先週、マイニングされたコインが4,000の焼却量を超えたため、インフレに対抗できる"スーパーサウンドマネー" ではないと指摘しています。これは、プルーフ オブ ワーク (PoW) からプルーフ オブ ステーク (PoS) へのコンセンサス アルゴリズムの移行に伴ってブロックチェーンが採用したデフレ モデルからの逸脱を意味しています。
アナリストのベンジャミン・コーウェン氏は、さらに低い目標設定です。同氏はイーサリアムが"行き過ぎたボラタリティ" の寸前で、年末までに$800から$400 の急落の可能性があると指摘しています。理由は同じ: ETH スマート コントラクト テクノロジーに基づいて構築されたブロックチェーン プラットフォームの収益性が低下する可能性があるからです。コーウェン氏によれば、ETHn強気筋と弱気筋ともに、"暴落により戦略が実行できなかった" ことで2023年の年末までに両者とも損失が確定することになります。
年末まで、残り3ヵ月半となりましたが、このレビュー執筆時の9月15日(金)の晩のETH/USD は$1,620前後、 BTC/USD は$26,415前後で取引されています。暗号資産市場の時価総額は、 1兆0520億ドルで1週間前の1兆0430億ドルから増加しました。市場におけるビットコインの割合は48.34%、イーサリアムは18.84%です。ビットコインの Crypto Fear & Greedインデックスは、'中立' 圏内に近づいているものの、45ポイントで '恐怖' のままです(一週間前は46 ポイントでした)。
NordFX Analytical Group
注意: この内容は金融市場への投資推奨やガイドラインではなく情報提供のみを目的としています。金融市場の取引には、リスクが伴うため入金した資金のすべてを失う可能性もあります。
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