EUR/USD: FRBの口先介入がドルを支える
- 前回のレビューでは、円高を意図した日本当局の公の場での口先介入について取り上げました。今回は、ジェローム・パウエルFRB議長率いるFOMC(連邦公開市場委員会)が同様の行動をとりました。FOMCは9月20日の会合で金利を5.50%の据え置くことを決定しました。これは、先物市場で99%の確率であったため、ほぼ予想どおりでした。しかし、会合後の記者会見でパウエル議長は、インフレ抑制は終了しておらず、目標の2.0% には2026年までかかるだろうということを示しました。つまり、25 ベーシスポイントの追加利上げの可能性は非常に高くなります。FRB議長によれば、景気後退の予兆はなく、米国経済はこのような高い借入コストを長期間維持できるほど堅調です。さらに、FOMCメンバー19人中12人が年内に5.75%への利上げを予想していることが明らかになりました。FOMCの経済予想では、この金利水準はしばらく続くと想定されています。最新の予想によると、具体的には1年後に5.1%(従来は4.6%)、2年後には3.9%(3.4%から修正)に引き下げられる見通しです。
市場関係者の見方についてはまちまちですが、具体的な動きはないものの当局のタカ派的主張がドルを押し上げていることは事実です。FRBは、ユーロ圏の金融引き締めサイクルは終わったと市場関係者に信じ込ませた欧州中央銀行(ECB)の失敗から学んだ可能性があります。念のためですが、ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は、現在の金利水準は許容範囲内であると考えていることを明らかにしている一方で、ギリシャ銀行のヤニス・ストゥルナラス総裁は、金利がピークに達しており、次は引き下げになるだろう自身の見解を述べています。金融引き締めは9月が最後とした同様の見解が、ストゥルナラス総裁と同じくECBメンバーのクロアチア国立銀行ボリス・ブイチッチ総裁からも示されています。
FRBの口先介入の結果、ドルインデックス(DXY)は、わずか数時間で104.35 から105.37に急騰する一方、 EUR/USD は1.0616レベルまで下落しました。オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)のエコノミストらは、FRBが追加利上げに関して柔軟性を維持するという決定を下したことで、当面、ハト派的な展開を予想するのは得策でははないと考えています。
ダンスケ銀行のストラテジストは、" FRBは実際に利上げすることなく、できる限りのタカ派的だった"とした見解を示しました。しかし、 "ドル高進行にも関わらず、EUR/USD は上昇見込みの予兆があります" と述べています。ダンスケ銀行は、また、"ピーク金利、製造業部門の改善と比較したサービス部門および/または中国に対する悲観的な考えの低下が、来月にかけてEUR/USDを下支えする可能性があると考えています。しかし、長期的には、EUR/USDの下落支持のポジションの維持で、今後12ヵ月以内に1.0300を下回ると見ています"とも述べました。
9月22日(金)に発表された購買担当者景気指数にはバラつきがありました。製造業PMIは 48.9に上昇する一方で、サービス業PMI は50.2に下落でした。この結果、総合PMIは、50.0をわずかに超えましたが、50.2から 50.1へと下落しました。
PMIの発表を受けて、EUR/USDの今週の終値は1.0645でした。アナリストの70%はドル高が継続すると見ており、30%がこのペアの上昇支持です。 この一週間のテクニカル分析では、あまり大きな変化はありません。D1のすべてのトレンド系とオシレーター系のすべてがドルの支持で赤です。しかし、このうち15% が売られ過ぎの状況を示しています。直近のサポートは、1.0620-1.0630、1.0490-1.0525、1.0370、1.0255です。レジスタンスは1.0670-1.0700で、その後は、1.0745-1.0770、1.0800、1.0865、1.0895-1.0925、1.0985、 1.1045です。
来週のイベントとしては、9月26日(火)に米国の不動産市場データの発表があり、水曜日には米国の耐久財受注の発表があります。9月28日(木)は忙しい一日になること間違いなしです。ドイツからインフレ速報値(CPI)、米国からは第2四半期GDPの発表があります。また、恒例の米国労働市場統計の発表があり、その日はジェローム・パウエルFRB議長の発言で終わることになります。金曜日は、ユーロ圏の消費者物価指数速報値(CPI)や米国の個人消費に関する情報など多くのマクロ経済データの発表が予定されています。
GBP/USD: イングランド銀行はポンド支持を撤回
- 金融の世界はFRBの決定だけで回っていません。先週は、イングランド銀行(BoE)も声を上げました。9月21日(木)、イングランド銀行金融政策委員会はポンド金利を5.25%に据え置きました。FRBと同様の決定が予想されていましたが、イングランド銀行の動きは市場関係者を驚かせるものでした。25ベーシスポイントの利上げ見通しでしたが、実現しませんでした。その結果、ドル高ポンド安でGBP/USD は1.2230まで下落しました。
イングランド銀行の決定は前日に発表されたインフレデータに影響された可能性が高いようです。年間消費者物価指数(CPI)は前回の6.8%、予想7.1%に対し、実際には6.7%に低下しました。コアCPIも予想の6.8%に対して、6.9%から6.2%に下落しました。このようなデータから、すでに苦境にある経済に負担をかけず、一時停止するという判断は妥当と思われます。この根拠には、イギリスの9月サービス業購買担当者景気指数速報値(PMI)が8月の49.5と予想の49.2に対して、47.2と32ヵ月ぶりの低水準を記録したことからも裏付けられます。製造業PMI も44.2と報告されており、境界の50.0を大きく下回りました。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスのエコノミストによると、 これらの"残念なPMIの結果は、イギリスの景気後退の可能性が大きくなっていることを示しています。[...] PMIデータが示す生産量の急激な減少は、四半期ベースで0.4%以上のGDP縮小に相当しており、広範囲にわたる景気後退の勢いが増しているため、当面は改善の見通しはありません"。
米国の最大手銀行の一つであるウェルズ・ファーゴのアナリストは、イングランド銀行の決定はポンドの金利面での支持を失うとした見方をしています。同行の予想では、現行の5.25%金利がサイクルのピークとなり、2024年の年末までに徐々に3.25%へと下がります。つまり、"この状況では、ポンドが1.2000 、もしくは、それを下回っても不思議ではありません"。
同業のスコシアバンクも同様の見方です。安値更新、短期、中期、長期トレンドでのオシレーター系の強い弱気シグナルが、ポンドの1.2100-1.2200までの下落リスクが高まっていることを示しています。
ドイツのコメルツ銀行のエコノミストは、インフレ見通しが大幅に改善すればポンドの若干の回復の可能性について否定していません。同行では、イングランド銀行は再利上げの可能性を残していると考えています。現行金利の支持は5:4と僅差で、金融政策委員会の4人が25ベーシスポイントの引き上げに賛成しています。これは不確実性の高さを浮き彫りにしています。しかしながら、イギリス経済が弱いことから、ポンドの見通しは依然として弱気です。
GBP/USD の先週の終値は1.2237でした。直近の予想のアナリストの意見はほぼ同じ比率です: 50% は下落傾向予想、残りの50%が上方調整予想です。D1チャートのすべてのトレンド系とオシレーター系は赤です; また、オシレーター系の40% は売られ過ぎを示しており、反転可能性を示す強いシグナルになっています。
このペアが下落推移を続ける場合、サポートは1.2190-1.2210、 1.2085、1.1960、1.1800です。反対に上昇すれば、レジスタンスは1.2325、1.2440-1.2450、1.2510、1.2550-1.2575、 1.2600-1.2615、1.2690-1.2710、1.2760、 1.2800-1.2815です。
来週のイギリスの経済イベントで注目なのが、9月29日(金)に発表予定の国内の第2四半期GDPです。
USD/JPY: 活気のない日銀会合
- FRB、イングランド銀行に続き、日本銀行(日銀)も9月22日(金)に会合がありました。"活気のない会合でした" とTD証券のエコノミストは述べました。"全員一致で政策の据え置きが決定されました。声明文は7月に発表されたものとほぼ同じで、フォワードガイダンスの変更はありませんでした" 。政策金利はマイナスの-0.1%に据え置きでした。
会合の後の植田和男日銀総裁の記者会見も円の強気派を落胆させました。植田総裁の自国通貨安に反対するコメントはありませんでした; 代わりに、為替レートはファンダメンタルズ指標を反映し、安定を維持すべきだと繰り返しました。日銀総裁は、" 2%のインフレ目標達成が近いと確信した場合、イールドカーブ・コントロールの終了やマイナス金利政策の変更もあり得ます"とも述べました。
鈴木俊一財務大臣の発言も典型的な口先介入でした。"高い緊張感と即時性をもって為替レートを注視しています" 、"行き過ぎた動きに対するあらゆる措置も排除していません" と財務大臣は公言しました。昨年の為替介入は効果をもたらしましたが、似たような措置を近いうちに期待できるかどうかは示しませんでした。
米国債10年利回りやUSD/JPY は、通常、直接相関関係にあります。債券の利回りが上昇すれば、円に対するドルも上昇します。今週、FRBのタカ派的発言で10年国債利回りの金利は2007年以来の急伸でした。これにより、USD/JPY は、148.45に高値更新でした。TD証券のエコノミストによれば、米国債利回りの上昇を考慮すると、この通貨ペアは150.00を上回る見込みがあります。一方、フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルでは、149.20と150.30を目標水準としています。
5日間の取引の終値は148.36 でした。調査対象のアナリストの大半(70%)は、TD証券や ソシエテ・ジェネラルと同じ、USD/JPYの上昇の意見です。20%のアナリストは通貨介入による下方調整や急落を予想しています。 残りの10%は中立の立場です。D1のトレンド系とオシレーター系の100%は緑ですが、オシレーター系の10%は買われ過ぎを示しています。直近のサポートは、146.85-147.00 圏内、続いて、145.90-146.10、145.30、144.50、143.75-144.05、 142.20、140.60-140.75、138.95-139.05、137.25-137.50となります。直近のレジスタンスは、148.45に続いて、148.45、148.85-149.20、150.00、そして、2022年の10月の高値151.90となります。
来週は、日本経済の状況に関連した重要な経済データの発表予定はありません。ただし、9月29日(金)は東京地区の消費者インフレデータが発表のため、トレーダーはカレンダーに印をつけておきましょう。
暗号資産: $27,000のバトル
- 9月18日(月)にビットコインは急騰を始め、暗号資産市場全体を引き上げました。興味深いことに、この急騰の背後にある理由はビットコインに直接関連するものではなく、米ドルが要因です。具体的にはFRBの金利関連の決定です。ドル金利が高いと暗号資産などのリスク資産への投資は大口投資家が安定したリターンを好むため制限されます。今回の場合、FRBの会合を控え、市場関係者は利上げを控えるだけでなく、年末までの金利据え置きと確信していました。このような見通しにより、BTC/USD は急騰、8月19日は$27,467 のピークに達して、9月11日以来の10%の上昇でした。
ただ、金利据え置きだったものの、インフレ抑制の継続は会合後に明らかになりました。つまり、FRBのタカ派的スタンスからの転換への期待は、ひとまず脇に置いておくべきです。結果として、ビットコインの価格は反転しました。$27,000のサポートを突破後は、元の位置に戻りました。,
最近の引き戻しに関わらず、暗号資産コミュニティの多くはビットコインの上昇が続くと確信しています。例えば、通称 Yoddha というアナリストは、ビットコインは短期的には高値のチャンスがあり、年末までには$50,000 になる見込みがあると考えています。その後は、半減期に先立ち、2024年のはじめには$30,000の調整見込みであることを示しています。ブロガーのCrypto Rover も米国経済の問題がビットコインの上昇を促すと予想しています。このペアが$27,000超えで固めることができれば、$32,000に向かった価格推移を予想しています。
アナリストの DonAlt は、ビットコインが新たな上昇を見せ、2023年の高値更新の可能性があるとした意見です。"現在、上昇してバトルをしているレジスタンスを克服すれば" "目標は、$36,000. [...] で、上昇する場合は、急騰するため$30,000 でのエントリーも見逃す必要はないと思います。[ただ] 下落理由も十分にあります。最悪の場合は、$19,000から$20,000圏内に下落した場合、ちょっとした打撃を受けることになるでしょう "と同氏は述べています。
トレーダー兼アナリストのジェイソン・ピッツィーノ氏は、ビットコインの強気相場サイクルは1月頃から形成され始め、最近の価格整理にもかかわらず、このプロセスはまだ完了していないと考えています。こちらの専門家によれば、ビットコインは$28,500という重要なレベルを超えれば、強気のセンチメントが確認されます。 "この市場は、$25,000 レベルを下回ることがあまり見られません。下落しないとは言えませんが、この6ヵ月の週末の終わりはこのレベルを上回っています。今のところ、これは良いことですが、まだ、強気圏内ではありません。強気派は少なくても時々、$26,550 を上回る終値が必要です"とピッツィーノ氏は述べています。"強気筋にはやるべき事がまだ沢山あります。$28,500レベルをまた超えたら、これについて話しましょう。 これは、ビットコインが上昇を始め、$32,000を突破するための重要なレベルの一つです"。
ボリンジャー・バンドのボラティリティ・インディケータの考案者であるジョン・ボリンジャー氏は、ビットコインがブレイクアウトしようとしている可能性について否定していません。このインディケータは、単純移動平均からの標準偏差を使用して、ボラティリティと資産の潜在的な価格幅を決定します。現在のBTC/USD は、上値抵抗線に触れる日足を形成しています。これは、中央バンドへの反転、あるいは逆に、ボラティリティの増大と上向きの動きを示している可能性があります。チャートの狭いボリンジャーバンドは後者のシナリオの可能性が高いことを示しています。しかし、ボリンジャー自身は、最終的な結論を出すには、まだ、時期尚早であると考えて慎重なコメントをしています。
S2FXモデルの開発者で知られるPlanBは、今年初めの予想を再確認しました。同氏は、2022年11月の安値がビットコインの底値であり、半減期に近づくと上昇が始まるだろうと述べました。PlanB は、2024年の半減期でビットコインは$66,000までに上昇して、2025年には強気相場で$100,000ドルを上回る可能性があると予想しています。
投資家で"金持ち父さん、貧乏父さん" のベストセラー作家のロバート・キヨサキ氏も半減期に大きな期待を寄せています。こちらの投資家によれば、米国経済は深刻な危機の寸前で暗号資産、特にビットコインは、投資家にとって混乱時の安全資産になります。キヨサキ氏は、ビットコインの価格は来年に$120,000 に上昇する見込みであり、2024年の半減期がこの上昇の重要な要因になると述べています。
最後に、楽観的な予想とバランスをとるために悲観的な予想についても紹介しましょう。人気のアナリストでDataDashチャンネルのニコラス・メルテン氏によると、暗号市場は再び低迷する可能性があります。彼は指標として、ステーブルコインの流動性の低下を挙げています。"暗号資産市場の傾向を見極める良い指標です。例えば、2019年4月から7月にかけて、ビットコインは、$3,500から$12,000へ上昇しました。この間のステーブルコインの流動性は119%増加しました。 その後、流動性も一定の水準で推移する統合期が見られました。ビットコインが2021年$3,900から$65,000 に上昇した時は、ステーブルコインの流動性はi2,183%まで急伸しました" とこちらのアナリストは自身の観測をシェアしています。
"流動性と価格上昇は相互に関連しています。流動性が低くなり、調整となれば、市場は上昇しない可能性が高くなります。これは、暗号資産市場と金融市場の両方に当てはまります。市場の時価総額が増加するには流動性が必要ですが、私たちが目にしているのは流動性の継続的な低下で、これは、暗号資産の相場の下落となる可能性が高くなります" とニコラス・メルテン氏は述べています。
このレビュー執筆時、9月22日(金)の晩のBTC/USDは$26,525前後で取引されています。暗号資産市場の全体の時価総額は、ほぼ変わらずの1兆5300億ドル(1週間前は1兆5200億ドル)です。Bitcoin Crypto Fear & Greedインデックスは、2 ポイント下がって、45から43ポイントの推移で'恐怖' 圏内のままです。
NordFX Analytical Group
注意: この内容は金融市場への投資推奨やガイドラインではなく情報提供のみを目的としています。金融市場の取引には、リスクが伴うため入金した資金のすべてを失う可能性もあります。
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