EUR/USD: インフレがトレンドをけん引
- 先週のはじめは、世界の株式市場が上昇する一方で、ドル指数(DXY) は10月3日から下落を続けています。FRB当局のハト派的姿勢と米国債利回りが下落の要因でした。ここ数日、当局が市場に米国経済の"ソフトランディング" の可能性について積極的に説明しており、金融引き締めサイクルの一時的停止が長期化する可能性について示唆しています。例えば、10月11日(水)に、FRBのクリストファー・ウォーラー理事は"金融市場の引締めがある程度の我々の仕事をしている"と中央銀行が様子見であることについて述べました。
同じ日に、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録も公表されました。この議事録では、ハト派的ではないにせよ、タカ派的でないことは確かなようです。この委員会が9月に金利を据え置いたことには注目です。今後の見通しについて、議事録ではFRBのリーダーが米国経済の先行きが"かなり不確かであること"を認めており、 金融政策に慎重なアプローチを維持する必要性があることを認識していることが示しています。
米国生産者物価指数(PPI)の発表を受けて、市場のセンチメントは徐々に変化し始めました。労働統計局の発表によると、9月のPPIは0.5%上昇、予想の0.3%を上回りました。コアPPI(前月比)は予想の0.2%増に対し0.3%増でした。年率換算では2.2%となり、予想の1.6%、前回の2%を上回りました。生産者物価指数の想定外の急騰で消費者物価指数も予想外の上昇となるという憶測につながりました。
これは現実となりました。10月12日(木)に発表されたデータによると、9月のインフレ率は0.4%上昇で予想の0.3%を上回りました。年間ベースで見ると、消費者物価指数(CPI)も予想を上回り、予想の3.6%に対して3.7%でした。市場関係者は、このようなインフレ率の上昇を受け、ハト派からタカ派スタンスに移り、次回のFOMCで5.75%にするため25ベーシスポイント(bps)の追加利上げをする可能性があると判断しました。こうしたセンチメントの中、ドルは米国債利回りとともに急上昇となり、株式市場では下落となりました。DXYは、 106.35で直近の高値を更新しました。10年物国債利回りは4.65%まで上昇、2年物国債利回りは5.05%となりました。もちろん、EUR/USD は反転で、わずか数時間のうちに1.0639から1.0525に下落しました。
ドイツの消費者物価指数も9月11日(水)に発表され、年間消費者物価指数は4.3%、月次数値は0.3%で、どちらも予測や以前のデータどおりでした。ECB理事会メンバーでドイツ連銀のヨアヒム・ナーゲル総裁は、ドイツのインフレはピークに達していると述べました。総裁の見解によれば、2025年までには、金融引き締めによってユーロ圏のインフレ率は2.7%まで下がるとのことです。"高いインフレ率が抑制できるまでは継続する"と断言しています。
ECBの9月理事会の議事録によると、理事会メンバーの過半数がユーロの25ベーシスポイント利上げを支持しました。支持者の見解によると、一時停止は引き締めサイクルの終了を示すか、もしくは、理事会が過剰に高いインフレ率よりも経済状況と景気後退の可能性を懸念していることを示すことになります。この議事録は、10月12日(木)に公表されたものです。
フランス銀行のフランソワ・ヴィルロワ・ド・ガロー総裁をはじめ、一部のメンバーは政策金利の維持を主張しています。同総裁によると、金融政策の忍耐は、動かすよりも重要で、"ハードランディング"よりも"ソフトランディング"で目標を達成することが望ましいと述べています。
高い確率で、欧州中央銀行は10月26日の次回会合で金利を4.75%に引き上げるでしょう。利上げ後も、金利はFRBの金利よりも低いままです。ユーロ圏経済の明らかな低迷が重なって、ユーロに引き続き圧力をかけることになるでしょう。ウクライナで進行中の武力侵攻や最近のイスラエル・パレスチナ紛争によって、冬が近づく中、エネルギー価格が高騰する可能性があるため状況はさらに複雑となっています。
EUR/USD の先週の終値は1.0507でした。 このレビューを執筆した10月13日の晩の時点では、直近の見通しについてのアナリストの意見は分かれています: 80%が上昇調整を支持する一方で20%が中立の立場です。 ドル高支持は0%です。
テクニカル分析では、D1チャートのトレンド系が100% 弱気です。オシレーター系の大半 (60%) はドルの支持で赤くなっています。30% がユーロ支持で、残り 10%が中立です。
このペアの直近のサポートは、1.0450前後、そして、1.0375、1.0255、1.0130、1.0000が続きます。強気筋は、1.0600-1.0620付近でレジスタンスとなり、それから、1.0670-1.0700、 1.0740-1.0770、1.0800、 1.0865、 1.0895-1.0930と続きます。
来週の経済指標カレンダーでは、いくつか重要なイベントがあります。10月17日(火)は米国の小売売上高が発表されます。ユーロ圏の消費者物価指数(CPI)の発表は水曜日です。10月19日(木)には、フィラデルフィア連銀製造業景況指数と恒例の米国の新規失業保険申請件数の発表があります。木曜日の晩は、FRBのジェローム・パウエル議長のスピーチもあります。
GBP/USD: 難しかった、そして、これからも難しい
- 全体として、GBP/USD チャートはEUR/USDチャートに似ています: 木曜日まで上昇後、米国の消費者物価指数の発表後に反転して下落しました。米国の金融政策引き締めの見通しに加え、ポンドはイギリス国内の鉱工業生産統計によっても圧力に直面することになりました。
木曜日に発表された国家統計局(ONS)の最新統計では、産業部門の活動は8月に再び低下しました。製造業生産高は、予想の-0.4%、7月の-1.2%に対し、-0.8%の減少でした。全体の鉱工業生産は、予想の-0.2%および前月の-1.1%に対し、-0.7%減少しました。年率換算では、8月の製造業生産高は2.8%増加したものの、予想の3.4%には届きませんでした。鉱工業生産量全体も予想を下回り、予想の1.7%増ではなく1.3%増にとどまりました。
イギリスのGDPは、7月に0.6%減となった後、8月には0.2%増となりましたが、経済成長の鈍化リスクが大きくなっています。中東情勢の緊迫は世界のサプライ・チェーンを混乱させる可能性があり、石油を中心とする天然エネルギー資源の価格上昇はインフレ圧力を高めることになります。
また、イギリス企業は需要の伸び悩みで生産量の増加率が鈍化しただけでなく、融資金利の上昇により生産量拡大計画も延期することになりました。
この状況でイングランド銀行(BOE)は、インフレ抑制と景気後退阻止の板挟みになり、ジレンマに陥っています。イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は、10月13日(金)にモロッコで開催された国際金融協会の年次総会で"前回の決定は非常に難しいものだった" 、そして、"今回の決定も難しいものだろう" と述べました。9月の金利が5.25%に据え置かれたことには注目です。次回のイングランド銀行の会合は11月2日に予定されており、わずかでもベーシスポイントを上げることを選択するかが重要な疑問のままです。
GBP/USD の先週の終値は1.2143でした。直近の見通しについてのアナリストの意見は、驚くほど100%一致でこのペアの上昇です (このように、全員の意見が一致していたとしても、将来そのとおりになる保証はありません)。対照的にD1 チャートのトレンド分析ではすべてが弱気です: 100が下落を示しており、赤です。オシレーター系は、50%が下落、40%が上昇、10%が中立を示しています。 下落トレンドでは、1.2100-1.2115、 1.2030-1.2050、1.1960、1.1800がサポートになります。このペアが上昇すれば、 1.2205-1.2220、1.2270、1.2330、1.2450、1.2510、1.2550-1.2575、1.2690-1.2710、1.2760、1.2800-1.2815でレジスタンスに直面します。
来週の注目イベントは、10月17日(火)のイギリスの労働市場に関するデータ発表です。10月18日(水)には、ユーロ圏と英国の消費者物価指数(CPI)の発表があります(この日は、特に大きなボラタリティがEUR/GBP で見込まれます)。また、10月20日(金)に発表されるイギリスの小売売上高データも興味深いでしょう。
USD/JPY: 一周して元に戻る
- 日本はどうでしょうか? まぁ、状況は大方いつもどおりです。10月3日に147.24レベルに急落した後、USD/JPY は上昇基調を再開し、今週の高値は149.82で重要な150.00 レベルにわずかに届きませんでした。米国のFRBと日本銀行(日銀)の金融政策の乖離がこのペアを押し上げると再三にわたって述べられていました。日本の金融当局による為替介入は、一時的な円高に過ぎないでしょう。
日本銀行によると、生産者物価指数の上昇率は9ヵ月連続で鈍化です。生産者物価は8月に3.3%上昇、9月予想は2.3%でしたが、実際には前年同月比2.0%増と2021年3月以来の低い伸び率です。しかし、消費者物価指数について、日銀は2023/24年度のコア消費者物価指数(CPI)の目標を2.5%から3%程度に引き上げることを検討しています。これは、10月10(火)に共同通信が情報筋から入手した報道です。
格付け会社のS&P グローバルは、日本経済と金融政策の状況を評価するにあたって、"日本の金利は2024年から上昇する" とした見方をしています。しかし、この見方は日本銀行(日銀)当局の発言と矛盾しています。例えば、日本銀行政策委員会の野口旭審議委員は、10月13日(木)に "利上げは目標としているインフレ率が2%になったとき" と発言していますが、この目標には、程遠い状態です。野口審議委員によれば、"急ぐ必要なし" 、 "イールドカーブ・コントロール(YCC)政策を緊急に調整する必要なし"ということです。 野口氏の発言から推測できることは、FRBの金融政策がなければ、金利はマイナス水準の-0.1%に据え置きのままで、日本当局は利上げを話題にすることもなかったということです。野口氏は、利上げは"必ずしも日本のインフレ期待に反映しているわけではなく、むしろ米国の金利を反映している"と述べました。
USD/JPY の先週の終値は149.53でした。大半のアナリストはユーロやポンドに対してドル安予想ですが円に関しては、調査対象のアナリストの25%しか支持していません。大方の75%の予想ではさらなる円安とドル高です。 トレンド系では緑が100% のままです。オシレータ系では、やや低く80%が緑、10%が赤、残りの10% がグレーです。直近のサポートは、149.15、そして、148.15-148.40、146.85-147.25、145.90-146.10、 145.30、144.45、143.75-144.05、142.20、140.60-140.75、138.95-139.05、 137.25-137.50です。直近のレジスタンスは、149.70-150.15、それから、 150.40, 151.90 (2022年の高値)、153.15です。
来週は日本経済の状況に関する重要な経済指標の発表予定はありません。
暗号資産: ビットコインが次に飛ぶところ
- 先週、ビットコインは、"ビックブラザー" から引き離され、直接相関や間接相関を無視して独自のコースを進みました。株価指数の上昇とドル安にも関わらず、ドル高が始まるとビットコインは下落して横ばい傾向の推移となりました。
BTC/USD は3月中旬から$24,300-$31,300 での取引幅です。この8週間では、上値抵抗線は下がって、$28,100-$28,500 の範囲で落ち着いています。この幅が狭くなるにつれて、短期の投機家や個人トレーダーの動きが静かになり、実現資本額指標ではゼロに近くなっています。"ホドラー"として知られる長期保有者もBTCウォレットを減らさず、一ヵ月で50,000 コインの購入でむしろ増やしています。
歴史的に、このような市場の停滞は、大きな価格変動の前に起こりました。多くの投資家は現在、さらなる強気相場の誘因が2024年の半減期やビットコインETFの認可の可能性と推測しています。米国のテクノロジー企業であるマイクロストラテジーは約42億4,000万ドル相当の158,245BTCを保有しています。また、巨大投資機関であるブラックロックも6月にスポットbitcoin ETFの申請 や大手マイナー企業の4億ドル相当の株式を取得しました。
ブルランが直ぐに始まる可能性があります; しかし、ブルームバーグのストラテジスト、マイク・マクグローン氏は、米国の厳しい政策、とりわけ、証券取引委員会(SEC)による政策がビットコインの成長を妨げる大きな要因であると考えています。ChatGPT のCEOであるサム・アルトマン氏も、暗号資産業界に対する米国政府のアプローチに失望しています。"暗号資産の戦いは終わりそうになく、規制当局がすべてを管理下に起きたがっているようだ"と 同氏は述べました。アルトマン氏は、米大統領候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏と一緒に、独立系デジタル資産に対する政府の敵意には独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を導入したいという政府の願望も含まれているようだと考えています。この願望が実現すれば、国家は国民を監視する新たな手段を手に入れることになります。
暗号資産に対するもう一つの圧力は、FRBの金融政策です。アナリストのニコラス・メルテン氏は、FRBの動向でビットコインが大きな打撃を受ける可能性があり、米国経済の長期低迷につながる可能性があると見解を示しています。石油、天然ガス、ウランなどの商品価格が安定または下落に転じれば、短期的な景気後退が迫っている可能性を示唆しています。このようなシナリオで、株価は2022年10月に起きた調整と同様に、約33%下落する可能性があるとメルテン氏は予想しています。これにより、ビットコインは$15,000-$17,000の急落もあり得ます。
同氏は、FRBが経済に流動性を注入するまでは、市場に強気傾向が続く可能性は低いと述べています。"ビットコインは、資金供給の増加や投資家のリスク容認度が大きい時に上昇します。現時点では、どちらにも見合っていません" とニコラス・メルテン氏は述べています。
ビットコインの現在の推移は、2016年と2020年の半減期前後に観察されたものと一致しているようです。夏のピークの後にビットコインは下方調整に入りました; しかし、これは想定外ではありません。通常、半減期の200日頃前にビットコインは 60-65% まで下落しますが、その後に上昇を再開します。
多くのアナリストがビットコインは、2024年に大きく上昇すると予想しています。投資家の楽観的な見方は、このデジタルゴールドの現在の価格傾向を後押しします: 夏の高値から下げ戻したにもかかわらず、ビットコインの投資は年初以来60% もリターンを上げています。
JPモルガンのアナリストが2024年に$45,000に上昇すると予想する一方でスタンダード・チャータードは$100,000を予想しています。作家で投資家のロバート・キヨサキ氏や クリプトグラファーのアダム・バック氏も$100,000 の大台を目標としています。Fundstratリサーチの設立者であるトム・リー氏は$180,000を想定しており、ベンチャーキャピタリストのティム・ドレイパー氏は、$250,000を予想しています。ビリオネアのマイク・ノヴォグラッツ氏やARKインベストのCEOキャシー・ウッド氏は、来年、それぞれ$500,000と100万ドルに上昇すると 予想しています。
BitMEXの元CEOアーサー・ヘイズ氏は、来年のビットコインの目標を$70,000と"控えめ" にしました。$750,000から100万ドルの範囲については、 ヘイズ氏は2026年までにBTC/USD が達成すると予想しています。同氏は、資産供給が限られていること、スポットビットコインETFの承認が見込まれること、政治情勢の不確実性に基づき予想しています。"これは人類史上最大の金融市場ブームになると思う。ビットコインは、とんでもない水準まで爆上がりして、ナスダックやS&P 500 もとんでもない水準まで高騰するだろう"とヘイズ氏は述べました。
ウォーレン・バフェット氏のパートナーであり、米持株会社バークシャー・ハサウェイの副会長を務めるチャーリー・マンガー氏は、デジタル資産の悲惨な未来を予測しています。同氏の見解では、これらの資産への投資の大半はいずれ価値がなくなります。"ビットコインの話はしないでくれ。これまで見た中で一番愚かな投資だ"と99歳の投資家はZoomtopiaのオンライン会議で述べました。
このレビュー執筆時の10月13日(金)の晩、暗号資産市場の時価総額は1兆4600億ドルで、1週間前の1兆9600億ドルから減少です。市場全体におけるビットコインの占有率は、年初の39.18% から49.92%に増加しています。 アナリストのベンジャミン・コーウェン氏は、暗号資産市場は"最も荒れる" 局面に突入したと見解しています。同氏よると、アルトコイン価格が下落し、この資産クラスへの投資家の関心が低下する中で、ビットコインの比率は大きくなっています。コーウェン氏は、フィボナッチ・リトレースメントのレベルを利用して、この比率は前回のサイクルと同様に60%でピークに達する可能性が高いが、ステーブルコイン市場により、おそらく65% や 70% には届かないと予想しています。10月13日のBTC/USDは $27,075で取引を終えました。ビットコインのCrypto Fear & Greedインデックスは、 この一週間で50から44ポイントに下がり、中立から恐怖圏内に戻りました。
NordFX Analytical Group
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